少女の生き方
＿＿＿太宰治『女生徒』試読
要旨：『女生徒』という「意識の流れ」風の短編小説は、有明淑という太宰の愛読者の日記を元に書かれたものである。そのため、多くの学者は「女生徒」と「有明淑の日記」との比較に注目し、様々な研究を行った。一方で、比較より「女生徒」そのものに関心がある学者も多く見られる。しかし、筆者が調べた研究に限っては、全体としてこの女生徒はどのような特徴が持っているのかについての研究はほとんど見られなかった。そのため、本稿では、太宰が描き出したい「理想の少女」の特徴、すなわち、太宰が認める「少女の生き方」をまとめてみようと思う。
キーワード：太宰治 女生徒 特徴 理想の少女像
- 文献综述
目を覚めるから眠りに落ちるまでの一少女の一日の生活が第一人称で描かれた『女生徒』という作品は、太宰治の特色としての女性独白体の一代表作である。しかし、実際に「女生徒」は太宰によるオリジナルな虚構小説ではなく、有明淑という太宰の愛読者で、洋裁研究所に通う十九歳の文学少女の日記を元に書かれたものである。『有明淑の日記』が公開されて以来、多くの学者は『女生徒』と『有明淑の日記』との比較に焦点を定め、さらに日記を基に創られた『女生徒』をどのように評価すべきかについて、様々な研究を行った。
斎藤佳菜子氏は「太宰治『女生徒』論＿＿有明淑の日記との比較を通して」に文体面、技術面と内容面という三つの方面において両書を比較し、それぞれの共通点と相違を詳しく考察した。文体面、技術面においては有明淑と『女生徒』の「私」の設定、人物造形における工夫、また組合せの工夫や言葉の補充という四つの方面から研究を進めていた。そして内容面においては、太宰による創作、「私」と母との関係、『女生徒』母親の人物像、「私」の女に対する嫌悪そして女性観について五つの方面が挙げられていた。考察の結果、「『女生徒』は、太宰による改変と再構成により、普通性を持ち、多くの読者の共感を得る作品となったと考え、「女生徒」を太宰の創作歴の中に位置づけることに問題がない」と結論つけた。つまり、「女生徒」の価値であれ、太宰の創作であれ、両方にも肯定するという指摘である。
その一方で、主人公の女生徒のある考えや行為に着目し、女生徒のある特徴やそこに隠された作者の意図についても様々な研究が行われた。
関谷一郎氏の「『女生徒』試読」という論述は『女生徒』に関する研究の中に最も権威のある研究だと思われる。「不安定なアイデンティティ」という多くの研究に見られる見解もここで初めて提出された。「表現内容は一女学生の取り留めのない思いの羅列に過ぎず」、「評者は何を論じていいのか、とまどわざるをえぬ内容である」と、関谷氏はまず『女生徒』を論じることを難題にした。そして本文からいくつかの場面を挙げて、女生徒の特徴を「不安定」と「自同性」という二つのキーワードにまとめていた。「「私」は「少女」から一人前の「女」に至る過渡期にいるわけであり、「私」の捉え所のない「憂鬱」や「苦しさ侘しさ」は、根源的には少女でも成熟した女でもない不安定なアイデンティティに由来すると言ってよい」
また、「『女生徒』の時期特有の「ハシカみたいな病気」とは、自意識であり、自同性であり、すべて自己にまつわる問題である」と、「私」が自分のからだにこだわること、「ロココ料理」やお母さんからもらった風呂敷が好きということ、さらに「カア」という可哀想な犬に対して「わざと意地悪く」したことなど、いずれも自同性で解釈できるという指摘もあった。
その他、「父の喪失という境遇」に着目する研究もたくさん見られた。佐藤秀明氏が「『女生徒』＿＿表現する少女」に、父を失なっら「私」は「不安定」というより、むしろ自己表現の権利を得たと言ったほうが良いと指摘した。「娘は、父の庇護を失ったことで、いずれジェンダー化の不平等にも直面するであろう。それは少女の問題であり、とりとめのない感情の浮遊性を言語化することのできた少女は、無言でイデオロギーの規範に従うことはないだろうという見通しを示している。自己決定権を得て表現する少女は、娘らしさを決定することになる。」
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